傷ついた鳥が運んだもの 2005.02.03 「大阪府・藤本由美子様」から投稿頂きました。 ある早春の候、川沿いの畑で水やりをしていて、綺麗な色の鳥が梅の木にぶら下がっているのに気づいた父。鳴きつかれたのか、羽根をばたつかせるだけ、もはや気力もない様子。足元に目をやると、何重にも釣糸のようなものがからまっており、身動きがとれなくなっていたそうです。側にいた母にはさみを持ってくるように頼み、近づく父に、大きなくちばしで、最後のあがきともとれる威嚇をする鳥。その仕草で『懸命に生きよう』とする姿を見た父は、皮の手袋で手をおおい、「もうこんな目にあうんじゃないぞ」と、からまった糸をほどき、空高く放ってやったそうです。 それから鳥は、まるで父を呼ぶようにチッチッと毎朝、毎朝、高い枝にとまり、挨拶に来ていたようです。やがて父が亡くなり、その一年後に、母は木の下に鳥の死骸を見つけたのです。ひとめ見るなり、母は『あの鳥』だと気づきました。亡き主人を語るに相応しい出来事だったと話す母の顔が、私達にはぼやけて見えました。生きていると色んな事に遭遇するものですが、きっと『あの鳥』は父に、父は『あの鳥』に出会えて良かっただろうな、とそう思います。